春の夕暮
中原 中也
塗板がセンベイ食べて
春の日の夕暮は静かです
アンダースロウされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は穏かです
あゝ、案山子はなきか――あるまい
馬嘶くか――嘶きもしまい
たゞたゞ青色の月の光のノメランとするまゝに
従順なのは春の日の夕暮か
ポトホトと臘涙に野の中の伽藍は赤く
荷馬車の車、油を失ひ
私が歴史的現在に物を言へば
嘲る嘲る空と山とが
瓦が一枚はぐれました
春の日の夕暮はこれから無言ながら
前進します
自らの静脈管の中へです
出典:青空文庫(
https://www.aozora.gr.jp/cards/000026/files/55904_70773.html
)
青空文庫の奥付
底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩
」角川書店
2001(平成13)年4月30日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿の初稿によります。
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:村松洋一
校正:hitsuji
2020年3月28日作成
2023年6月15日修正
青空文庫作成ファイル:
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