北海の夜

今野 大力


旗がしきりにゆれている
ハタハタと、又ハタハタと
時には風が吹いて来て
ゴトンと音を立ててゆく
外はほんとに暗いのだ

自分よ、或る夜の事を思い出せ
そしてぞうっと身ぶる(ママ)
今夜の雪は青白い
すごい黒さが沁みている


海の妖婆が踊るよな
暗い恐ろしい夜となる
日本海と太平洋の沖の方に
何か変りはないだろうか。

海辺の街の病める友は
こんな夜なら寂しかろう
母がはなれているのさ(ママ)
悲しくなって来るだろう
窓の近くに横たわり
眠りもせずに、うつうつと
ものを思えるその時は
そうっと窓の近くにて
海の妖婆が笑うだろう

私も自分がさびしくて
忘れようにも忘られず
ぞうっと身ぶる(ママ)するのだよ。

一〇・三・四稿



青空文庫の奥付



底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
初出:「白楡 第二十五号」
   1923(大正12)年8月刊
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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