父母達の家

今野 大力

住み古した父母達の家に
父母達の顔にきざんだ皺をかぞえることなく
老いたる父母達の苦難な生活の有様をうかがい見ることなく
俺の健康な顔を見せ
ガッシリとしてきた手をさしのべることなく
街の中に
幾百万の人民の中の一人となり
父母達の家を
数々の家々とひとしく見過して
立去るおもい、
逢わねば心細くもあり
語らねば物がなしくもある

わが子をはげまし
わが子を階級戦の熾烈なさ中へ送る意気込みはなくとも、
わが子の真剣な働きを信じて
わが子の無事を祈り
わが子の仕事の成功をねがえる父母達

俺は父母達のすこやかであることを
そして父母達の存生(ママ)の間に
俺達の勝利をかちとることを
切に切に希望すればこそ、
一歩 一歩
父母達の家を遠ざかってゆくとき
一足毎に力もて大地を踏みしめ
明日の準備に
勇躍して部署につくのだ



青空文庫の奥付



底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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