もうおそい

今野 大力

生かさせたいがもうおそい
両肺が全部やられている
猛烈な腸結核で
一日の膿の排出は多量で
ちっとも消化力ない胃腸
痔が悪くって腎臓も悪くて
耳が悪くてもう全身
あますところなく悪化している
これは医者が言うのだ、そしてあと
一月かどうかとすら公言する

熱が四十度をこえる
味覚は破壊されて
食慾が全くない

食慾がなく
熱を出して
毎日肉をけずっていれば
やがてけずる肉のなくなった時
お前は死だ、

死は神秘でも神の御召でもない
死は肉体の破壊である
お前はすでに大いに破壊されている
生かさせたいがもうおそい

ただ逢いたい人々よ
早よ鉄窓の彼方からかえってこい
庭の椿もすでに落ちた

五・二〇



青空文庫の奥付



底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年5月24日作成
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