あゝ終の夕は来りぬ、
天昏に地昏にさはなる
不浄はもこゝに亡ぶか、
洗礼女――河原の葦に
法涙の露無量光、
新らしき生命の慈相――
十夜法会の跡さびしき、
天台の寺院の堂に、
いからしく波うつ霧や、
仏龕の虫ばむ音は、
悲しとも、これも自然が
法の座へ辿る足音ぞ、
きけ葦のさなす小琴に、
霊のうた『血汐は白し
血は白し、こや敬虔の
古瓶の封を破らず
時をまち考え伏して
いまぞいま『自然』に浸す、
白き血に映れ大天、
白き血を吸へや大地
ありとある孤独のものは
静寂の法に帰依して
黙しつゝ白き血飲め』と、
きくからに身も溶けごゝち。
見かへれば喬木のしげみ
天台の寺院は闇に――
うなだれて物思ひ立てる
己が身も小河も葦も
大法の一切滅に
あゝなべて見えざる光輝――