受難日
萩原 朔太郎
受難の日はいたる
主は遠き
水上
(
みなかみ
)
にありて
氷のうへよりあまた光る十字すべらせ
女はみな街路に裸形となり
その素肌は黄金の林立する柱と化せり。
見よやわが十指は晶結し
背に
くりいむ
は瀧とながるるごとし
しきりに掌をもつて金屬の女を研ぎ
胴體をもつてちひさなる十字を追へば
樹木はいつさいに
轉し
都は左にはげしく傾倒す。
ああ十字疾行する街路のうへ
そのするどさに日輪もさけびくるめき
群集をこえて落しきたるを感じ
いのり齒をくひしめ
受難の日のひくれがた
われつひに蛇のごとくなりて絶息す。
出典:青空文庫(
https://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/53589_44232.html
)
青空文庫の奥付
底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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