烏百態

宮沢 賢治

雪のたんぼのあぜみちを
ぞろぞろあるく烏なり

雪のたんぼに身を折りて
二声鳴けるからすなり

雪のたんぼに首を垂れ
雪をついばむ烏なり

雪のたんぼに首をあげ
あたり見まはす烏なり

雪のたんぼの雪の上
よちよちあるくからすなり

雪のたんぼを行きつくし
雪をついばむからすなり

たんぼの雪の高みにて
口をひらきしからすなり

たんぼの雪にくちばしを
じつとうづめしからすなり

雪のたんぼのかれ畦に
ぴよんと飛びたるからすなり

雪のたんぼをかぢとりて
ゆるやかに飛ぶからすなり

雪のたんぼをつぎつぎに
西へ飛びたつ烏なり

雪のたんぼに残されて
脚をひらきしからすなり

西にとび行くからすらは
あたかもごまのごとくなり



青空文庫の奥付



底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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