人間の悲哀
石川 啄木
人間の悲哀とは、
自己の範圍
を知ることである。生れ落ちた時、私は何も知らなかつた。その時何の悲しみがあつたらう。經驗と教育とは日一日と私の、自己及自己以外の事物に關する知識を廣くし、深くした。――私は日一日と、自己の範圍といふものを一劃々々知つてゆく樣になつた。
何の自由、何の領土が人間にある? 自己の範圍といふものは、知れば知る程小さくなつてゆく、動きのとれぬものになつてゆく。
常に何らかの努力をせねばならぬ人間の運命を、私はしみ〴〵と痛ましく思ふ。
出典:青空文庫(
https://www.aozora.gr.jp/cards/000153/files/48142_47589.html
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青空文庫の奥付
底本:「啄木全集 第十卷」岩波書店
1961(昭和36)年8月10日新装第1刷発行
入力:蒋龍
校正:阿部哲也
2012年4月15日作成
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