一頭のやせ馬に、
ひかれゆく黒塗りのかた馬車。
乗ひ合は六人、
その中に
膝向き合はした客は、
お互に眼をひらめかし、
たゞ無言。
――疑ひの多き車内だ。
沙漠に似たる車内に、
一人の若かい女、
今宵の旅の疲れに、
一つの慰めとなる。
あゝ車内の若かい女、
夜のランプにたとへやう?。
その異性の光は、
私の淋しい心を照らす。
時々色と匂ひと、
車のゴタック毎にとろけて、
静かになつかしく、
哀れなものはやせ馬、
鼻息荒らく、たゆむ隙がない、
鞭の鳴る毎に
いや更に走る。
青空文庫の奥付
」国書刊行会