
音なき秋の空をながめて、
木の葉は淡き
色みな、悲しきメロディなり。
時のまに〳〵泣きすぐる風に、
調べはいたく、狂ひわなゝき、
自然の胸の痛みは、更に深し。
黄ばめる木の葉は、翼をふるひ、
暗をもりたる、谷をみおろし、
渦まきながら、果ては消えゆく。

こゝちよき南の朝、
空は
いろ鳥の歌は、若かき恋のごとく、
眼ざめし軟風、払手柑の花咲く
泉のほとりに、たわふれば、
かぐわしき名香、四方に散じ、
草葉にむすぶ露も、はら〳〵と散る。
あわれ、ユウカリ樹の下に、
たをやの髪を手にまきて、
若かき恋の別れを告げし、曙も、
今は、

なぎたる海の如き
香ひよき酒にさめて、
物すごき森の奥に、
極楽鳥の声をきくとき、
心は新らしき悲しみの眼をひらく。
南極星のなゝめに傾むき、
椰子の葉影にふるゝ頃まで、
色あせし唇に、「かの日の歌」をなせど、
たへなる音もなく、息は糸のごとく衰ろへ、
果敢なき涙して、喜びは吾れをさかりゆく。

涙ぐみたる植民地の空。
あぢきなき労働を終へて、
榕樹の影に
息ふかき鐘の音は、愁人の声を偲ばせ、
………かたパンを食ふに似たる
」国書刊行会